Yagami Tennis Club's Safeguarding Educational Material Adopted by the International Tennis Federation—Now Available in 211 Countries and Regions Worldwide
Overview
The Keio University Yagami Tennis Club is an organization established within the Keio University Athletic Association (KUAA) based on Article 49 of the KUAA Regulations. Aligned with the mission entrusted to it in accordance with the objectives of Keio University, the Club is tasked with leading the development of tennis competitions domestically and internationally. It places importance not only on honing competitive skills but also on conducting sports management activities, various social contribution initiatives, and academic research and surveys.
Recognizing recent misconduct in the Japanese university sports community as a significant issue, the Club has undertaken the Investigation on Good Governance of University Tennis Clubs since the academic year 2021, aiming to serve as a model for organizational management. Recently, the Governance Self-Assessment Sheet for College Tennis Clubs, developed based on this research, has been adopted by the International Tennis Federation and is being distributed worldwide to 211 countries and regions. Going forward, the Club will continue to contribute to the international promotion of safeguarding through the proper organizational management of sports entities and strive towards achieving the Sustainable Development Goals (SDGs).
Ⅰ. 概要
慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部(以下、本庭球部)は、慶應義塾体育会会則第49条に基づいて、慶應義塾体育会に設置されている団体です。慶應義塾の目的に照らし、国内外のテニス競技の発展を先導する使命を負託されており、競技能力の研鑽のみならず競技運営活動や各種社会貢献活動、学術研究調査を実施することを重視しています。
本庭球部は、近年の我が国大学スポーツ界における不祥事を重大な課題と捉え、自らその組織運営の模範となるべく、2021年度より「大学テニス部のグッドガバナンスに関する調査」を国内外で展開しています。この度、その研究をもとに開発した「Governance Self-Assessment Sheet for College Tennis Clubs」が国際テニス連盟において採択され、世界211の国と地域で配信されるに至りました。今後も、スポーツ団体の適切な組織運営を通じた国際的なセーフガーディング促進に取り組み、SDGsの達成にも貢献して参ります。
Ⅱ. 詳細
本庭球部は、スポーツ経営学の観点から社会的課題について科学的に調査・思考した上で査読論文にまとめ、さらにその研究をもとにした膨大かつ多岐にわたる社会活動を通じて、セーフガーディングやダイバーシティ&インクルージョンの国際的促進にまで大きな役割を果たすことで、先導者性を強く発揮しようとしてきました。
そうした顕著な実績は、国際テニス連盟(ITF)ほか国内外の学術・体育団体より高く評価されています。同賞の授与団体であるITFは、1913年設立、世界213の国と地域が加盟するテニス競技・産業および学術の国際機関であり、英国のローハンプトンに本部を置く権威ある団体です。本庭球部は、科学的精神や個人の独立の尊重といった慶應義塾の塾風に立脚した一連の活動を通じて、国際社会において高く評価されています。
上記論文は、新規性・社会性・発展性に優れており、かつ、当該教材の開発・普及の取り組みを中心とした一連の活動を通じて、国際的なセーフガーディング指針の策定・普及に大きな役割を果たしたことなどが認められています。それは、人々の尊厳を守り、多様な価値観を認める協生社会を実現する点で、SDGsのターゲット5.5、16.2および16.6の達成に寄与するものです。また、事故や熱中症・落雷などへの対策を促進した点で、安心・安全な社会環境づくりにも貢献したものです。以下では、それぞれの活動の詳細をご紹介します。
図1 「ITF SAFEGUARDING POLICY」
① 当該論文が新規性・社会性・発展性に優れている点について
■新規性・社会性・発展性の高さ
本庭球部として、2022年に国際学術雑誌に公刊した査読論文「A Practical Example of Strengthening Governance in Japanese College Tennis Clubs」ITF Coaching & Sport Science Review 87 18-24(図2)の研究過程では、全国268大学を対象にガバナンス調査「A Survey on Good Governance in College Tennis Teams」を実施しました(図3)。その背景には、学校体育や部活動現場でのセーフガーディング欠如は、その出身者などによって企業社会等にも持ち込まれ、ひいては自他の尊厳を軽視するような社会風土の形成に繋がりかねないのではないかという、本庭球部独自の課題意識がありました。
実際、学校教育の過程で多くの人々が学校体育や部活動に参画しますが、そうした現場での不祥事が近年社会問題化していることは周知の事実です。ところが意外にも、公益法人たる中央競技団体とは異なって、学校体育や部活動においては、学校教育の一環、あるいは学生の自主的課外活動としての性質上、セーフガーディングの観点から実態を把握しようとした学術研究はほとんど存在しませんでした。そこで、本庭球部はその先駆けとして、まずはゆかりのある大学テニス界を対象に学術的な調査を実施し、そこから広げてゆく形で社会のセーフガーディング促進を目指すこととしました。
当該調査の遂行にあたっては、専門性と実効性を高めるため、日本テニス学会会員との連携を重視し、同会員で弁護士の山本衛氏、専修大学教授の平田大輔氏、および筑波大学准教授の三橋大輔氏からなる調査チームが組織され、本庭球部81期の発田志音が研究代表者を務める形で、全日本学生テニス連盟の協力のもとで実施されました。
図2 「A Practical Example of Strengthening Governance in Japanese College Tennis Clubs」
図3 Yahoo!ニュース等での報道記事抜粋(2022年6月9日)
そして、調査結果の速報は順次、学会口頭発表がなされました。当該論文の新規性・社会性ある点として、そのような観点から全国的な調査を実現した点が挙げられ、他種目や他業界への応用可能性という点で発展性も認められています。実際に、調査結果は社会的反響を呼び、Yahoo!ニュースといった全国的メディアにおいて報道がなされた(図3)ほか、国際学会Australian and New Zealand Sports Law Associationの発行する機関誌であるThe Commentatorより、寄稿の依頼があったほどであり、国内外から注目を受けました。
なお、以下に述べる通り、当該論文では、本庭球部が自ら実施したガバナンス強化事例について紹介がなされています。そのことは、査読審査や表彰審査の過程において、そうした慶應義塾における塾生の躬行実践そのものが、国際的に実践事例として価値あるものとして高く評価されたことを意味しているものと自負しています。
■掲載誌の国際評価と査読水準の高さ
ITF Coaching & Sport Science Review誌は、ITFが出版する体育学分野の国際学術雑誌(オープンアクセス・査読あり)であり、論文掲載費は無料、1992年から発行されています。同誌は体育学の最先端、とりわけテニス研究分野において最新の科学情報を伝達する専門誌として国際的に広く知られており、たとえば各国のテニス競技ナショナル・チーム(オリンピック代表選手団など)の科学情報解析チームにおいても参照され、指導方法や強化戦略に影響を与え続けているほか、用品メーカーなど産業界からの注目も集まっています。
同誌における査読プロセスは、編集長により指名される2名以上の専門性の高い査読者によって厳格に実施されています。同誌は慶應義塾メディアセンターのKOSMOSでの論文検索結果にも表示されるものであり、同誌掲載は、出版時点にて本庭球部の論文で日本人研究者3例目(他2例はいずれも大学教授が筆頭著者)でした。なお、欧米圏の一般読者にも親しまれるよう、同誌は英語、フランス語、およびスペイン語の3カ国語版での出版が原則となっており、本庭球部の国際性を象徴しています(図4)。
図4 本庭球部が公刊した当該論文のフランス語版(上)およびスペイン語版(下)
② 当該教材の開発・普及の取り組みに代表される社会貢献活動について
■セーフガーディング教材の開発と国内外における普及活動
図5 本庭球部のオンラインミーティングにて当該教材を用いた組織運営評価を実施
本庭球部は当該論文中の調査結果をもとにして、セーフガーディング教材「Governance Self-Assessment Sheet for College Tennis Clubs」を開発し、国内外での普及活動に取り組み、成果を挙げました。当該教材は、調査結果をもとに全国の大学関係者と議論した上で策定された、「意思決定の過程で第三者による審査を実施しているか」など9項目から構成されており、それらの項目について、各大学の運動部が自主的に「A:十分対応している」「B:一部対応している」「C:対応できていない」のいずれかの評価を記入し、その理由と改善策を併せて記載できるよう設計されています。そして付属の資料には、適切な組織運営の事例が紹介されており、当該教材を用いることで各大学運動部は【評価】→【検討】→【実践】→【改善】→【評価】のプロセスの中で自らの組織における運営上の課題を把握し、改善に繋げることが可能となります。また、その評価結果を各大学運動部が公式サイト等で公開することで、対外的な組織運営の透明性も確保できます。なお、各大学運動部における人数規模や競技水準の差異に対応できるよう、複数バージョンの教材が存在します。
当該教材は、まず本庭球部にて実践がなされ(図5)、以下の成果として現れました。
l 事故発生時における独自の対応マニュアルの策定・周知
l 体調不良者発生時のマニュアルによる迅速な救護活動の実践
l 遅刻などに対して慣例の罰として行われていたランニングを廃止、明文化基準へ再編
l (上記総合して)95%の部員による「ガバナンスが向上した」との評価獲得
なお、本庭球部においてこうした成果を出すに至る過程には、伝統や慣例の存在も踏まえ、所属学生による徹底した討議のプロセスがありました。議事録からは、現役部員らが、団体としての総意となる独自の方針を民主的な討論、議論のもとに試行錯誤して創り上げ、上記に示したような成果を得るに至ったことが読み取れます。この実践事例は、上記論文中においても、「GOVERNANCE SELF-ASSESSMENT SHEET」の章において、「In Japan, Keio University, ……, implemented an initiative in which students who belong to the tennis club fill out the sheet themselves and disclose their governance self-assessment on the official website of their tennis club……」などとして紹介がなされています。そして、Yahoo!ニュースや慶應スポーツ新聞といった媒体においても報道がなされるに至り、先進的な取り組みとして社会的な注目を集めました。
図6 関東理工科大学硬式庭球連盟公式サイトでの教材配布
その後、当該教材は全日本学生庭球連盟加盟校のみならず、本庭球部82期の村上凌輔が幹事長を務める関東理工科大学硬式庭球連盟の加盟校などを加え全国315大学への試験的配布・実践が進められ、2022年12月26日現在、27大学・団体から実際に当該教材を使用ないし活用検討した結果の評価書・報告書を受信しています(図6)。ある関東の大学は「アメフト部やテニス部に限らず、ほとんどの運動部で、この評価シート(=当該教材)の定期的な実施と、これを起点とするガバナンス教育が実現できれば、不祥事予防や健全な集団機能に長期的な効果をもたらすと思います......管理者や指導者に限らず、選手を含めたすべての集団構成員のためのガバナンスに対する具体的な取り組みとしてアピールできたら、社会的インパクトも大きいだろうなとも思います。」とのコメントを寄せてくださり、当該教材の効果・可能性を高く評価していただいています。そして、国内における一連の成果は、2022年に開催された日本スポーツ法学会第30回大会・日本テニス学会などにおいても報告がなされました。
そして、当該論文の国際学術雑誌における公刊に伴う反響から、当該教材の英語版・フランス語版・スペイン語版の海外体育連盟・海外大学における配布(211の国と地域)にも取り組みました。そうした国外でのアウトリーチ活動が功を奏し、全世界で238,000人が参加しているITFの教育プラットフォーム「ITF Academy」などで活用されるなど、国際的な学術コミュニティの場での卓越した成果に繋がりました。
■国際的なセーフガーディング指針「ITF SAFEGUARDING POLICY」策定に向けて
そうした中で、本庭球部の当該論文や当該教材の開発・普及に向けた活動の成果、および提言・意見は、ITFの策定する国際的なセーフガーディングの指針「ITF SAFEGUARDING POLICY」(図1)に生かされています。「ITF SAFEGUARDING POLICY」は、ITFが世界共通で定める、参加者をハラスメントや虐待から守るための包括的な指針であり、ITFに加盟する世界213の国と地域の協会も準拠する指針です。その基本原則は次の通りです。
l Safeguarding is everyone’s responsibility and the welfare of every child and adult is of paramount importance.
l Everyone should feel safe, respected and valued in all tennis activities and engagement.
l Everyone has the right to enjoy tennis in safe and inclusive environments, free from all forms of harassment, abuse, exploitation and poor practice.
l Everyone must be vigilant and report any concerns to ensure that children and adults at risk of harm receive effective protection.
Ⅲ. 今後の展望
SDGsのターゲット5.5、16.2および16.6に対して、国内315大学からの意見聴取を通じて教材の改訂を進めることに取り組むことで、現状、全日本学生テニス連盟加盟団体のうち「指導者・上級生による暴力等の予防策を策定している」団体がわずか7%、「男女の力関係が対等である」団体が87%にすぎないという課題(本庭球部が実施した上記調査で判明)を、2025年までにいずれも95%とすることで解決したいと考えています。
Ⅳ. 主要なメディア報道
・学術論文および開発されたセーフガーディング教材
・Tennis.jp:本庭球部の調査実績が全国的なメディアで報道(Yahoo!掲載)
・慶應スポーツ新聞:本庭球部のセーフガーディング活動の実績が報道
・国際的なメディア報道
Ⅴ. 連絡先
本件に関するお問い合わせは、本庭球部広報戦略委員会までお願いいたします。
以上
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